『メタボリズム・グループ』
日本で最初の建築・都市デザイン運動、このメンバーの一人が建築家が黒川紀章氏である。
このブログでも何度か『街と部屋の有機的関係』を話していますが、1960年代〜70年代の前衛的建築家は今の現代社会を予測し「個人と都市」を関連付けたデザインを展開した。
メタボリズムは新陳代謝の事であるが、黒川氏の著書「ホモ・モーベンス」から考えると、そう簡単な(エコロジー・リサイクル)話ではない。
彼は現代のインターネットに相当する情報社会を予測し、都市化、少子化、家制度から開放されたニューファミリーに繋がる現代文明下の個人の尊厳の未来像を「ホモ・モーベンス:動民」と定義した。
彼が考えたのは、『家』という概念をそのまま狭くした空間が個人の空間ではなく、都市化された将来の故郷(『家』概念の象徴化)は「メタボリス」として精神的な領域にシフトすると考え、個として独立し、都市生活で自己表現(拡大する社会化)をする将来において、その反対に「個としてのプライヴァシーの危機と同義であり」、自立する個の存在を明解にする必然性を建築において表現した。これは都市化へのアンチテーゼではなく、高度情報化社会が個としての自立社会と同義であるという都市文明全体の有機的可能性であり、その新陳代謝としての「1個の細胞」として「カプセル」を提案した。
※このデザイン思想はロンドンのArchigram Group(アーキグラムグルーム)と関連性があるとも言われている。Archigram Groupについては黒川氏のHPにある「イギリスのDOCOMOMOの代表デニス・シャープ氏のメール」にも記載がある。
つまり、個としての空間を明解に維持(或いは守る)するためには、擬似的な家制度の縮小モデルを設計思想とする居住性のアイデアは「現代都市文明と個人の有機的結合という概念に親和性が無い」とも考えられるので、独創的なアイデアが求められる(ミニ戸建てのようなアイデアもアンチテーゼのひとつだろう)。
黒川氏の当時の結論が
この10?のカプセルである。
(彼のデザインは大阪万博で「カプセル住宅の提案」として公開され、このデザインを見たニュージャパン観光株式会社の開発スタッフが黒川氏に設計を依頼し、大阪・梅田に「カプセルイン大阪」カプセルホテルが誕生する。)
その実験ともいえるプロトタイプが1972年作の『中銀カプセルタワービル』だ。住居としてその思想が最も先鋭に反映している建造物であり、世界遺産の候補でもある。
さて、この『中銀カプセルタワービル』は、9月8日号の週刊新潮に『「黒川紀章のアスベスト汚染マンション」−世界遺産の候補だからの保存依頼もウソだった−』という記事で最近話題になり、この報道に黒川氏は新潮社を名誉棄損容疑で刑事告訴している。
http://www.kisho.co.jp/information/activities/rec-j.html■実際『中銀カプセルタワービル』のアスベストの現況はどのようなものか。
アスベストは、専ら大規模構造物や機械室駐車場の天井等の防火材として安価であるため使用され、本来防火構造のマンションに使われる頻度は最初から少なくマンション等での使用は鉄骨部分の錆び止めの使用であり室内への暴露に繋がる事は一般住居においては元々考え難い。
木造一戸建ての場合でも「飛散の起きない屋根資材の材料に使用」という例になるのでこの場合も、そのままで飛散が起きる事は考え難い。住店舗戸建てで屋根裏に、防火対策として吹き付けられるケースもあるが、これも事業用であり一般住宅ではない。だいたい一般住宅において吹き付けられたアスベストが剥き出しな状況は外観上からも有り得ない。
特に賃貸物件は10年ほどのルーチンでリフォームされるので、その危険性はより少ない。
実質的に(健康被害が想定される使用やアスベストの種類)危険性のある使用が規制されている1975年以降では「原則吹き付けアスベストは禁止」となっている。
国立保健医療科学院の空気環境と室内空気汚染の専門家:池田耕一氏のレポートによると
環境庁の基準で「1リットル当たり10本」に達するのは、「アスベストを使用して工事をしている空調機械室の中だけ」である。
「アスベストが吹き付けてある劇場の屋根裏の「キャットウォーク」で実際に濃度を測定したこともありますが、十分に基準値を下回る結果でした。そっとしておけば大丈夫なのです。(池田氏)」
しかしこの環境庁の基準自体「量的にどのくらい被爆したら発病するのかという確たる目安は残念ながらありません。(池田氏)」という状況にあり、「安全が“保障される”基準」とは言い切れないだろう。アスベストには根絶すべきであり、その法的整備が必須なのは言うまでも無い。
そして実際の健康被害はどのような条件で起きているのか?
アスベスト問題がもっぱら労災である事でご存知の通り、アスベスト(加工品を含めて建材など多数の製品があった)加工工場内であり、有名な大手機械メーカークボタ旧神崎工場近隣住民の健康被害では「工場からの空気中への飛散が長期間続いたため」、という環境が健康被害の背景となっている。
つまり、今問題になっているのは「アスベスト工場労働者の補償問題」と「増改築工事の時の、建造物の破壊による飛散の危険性」である。
東京都のアスベストマニュアルも「解体工事における注意義務」のマニュアルだ。
政府が準備している法案では、今後の増改築を巡る安全な撤去義務を課す事によってアスベストを根絶させるのが狙いである。
さて、『中銀カプセルタワービル』のアスベストの存在は、「鉄骨の錆止め」だけでは無く、空調の裏、TV、冷蔵庫裏などにアスベストが使用されている事が報告された(この点では「TVを取り外した空洞裏にアスベストの暴露があった」という部分の報道は正しい)。管理組合は今後、室内アスベスト飛散の調査や、健康診断も予定している。
空調に関しては安全を確保するまで、使用禁止とし、保全補修の応急処置が行われる(吹き付けアスベストは壁紙や接着剤などで飛散を止めることで応急処置となる)。
※これは「中銀カプセルタワービル」が、壁面建て付け収納に家電製品を埋め込むという通常には無い設計であるため、防火対策として吹き付けられたものだと考えられる。
■結果
「確かに現在の『中銀カプセルタワービル』にはリスクがあることは事実である。」
しかし、新潮社の報道は、物件の管理主体が管理組合にあるにも関わらず、10年前から(これは建築家の方に確認「10年ほど前から当局よりアスベストに関するに注意勧告があった」との事)アスベスト撤去について修繕計画を提案し、いわんや(黒川氏の発言どおり、世界遺産は古い建築物から推薦されるので、今カプセルターがどうこう言う時期ではない)世界遺産推薦の件で、黒川氏が建替えをを妨害しているなどという報道は、黒川氏への個人攻撃としか思えないし(又、デザイン関係者から「黒川氏にはいろんな意味で敵が多い」という話も聞きました)、調査結果を待たなければならないが、その調査の公式発表前に「中銀カプセルタワービルが汚染されている」との報道はいきすぎだろう。
管理組合に対して、その危険性を認知させる事が報道の主眼なら、アスベストの存在の有無と場所、未対策である現状を客観的にの報道する事で良かった事になる。
黒川氏には「建築段階等で施工会社を相手に妥協しない人物」との評判があると聞く。この辺の業界内でのやりとりが誇張され、新潮社の報道におけるバックグラウンドとなっているのではないか?
上記にあるような「黒川氏の仕事上のスタンス」と中銀カプセルタワーのアスベスト問題は個別に語られるべき話だろう。
建替えに関しても、現実問題管理組合の議決によるマンションの建替えは非常に難しい事はご存知の通りで(現に構造破壊が起きている「神戸震災後のマンション」においても建替えを巡っての議決が難航している事例が多いことが既にNHK等で報道されている)、「建主(黒川氏)が建替えを阻止する」話自体にも無理がある。
(この報道と告訴の経緯は随分と調査した。その結果「複数の掲示板やブログコメント欄に“コピーペースト”による、ある特定の書き込みを発見した。こればかりは確認しようも無いのだが、何か釈然としないものを感じたのは事実である。)
今後アスベスト対策の工事がどのようになっていくのか、管理組合の議決を含めて未知数の部分も多いが、その危険性が対策可能な範囲にある事は「アスベストの危険性について」単独で考えても明らかである。
今回この賃貸物件を紹介するにあたって、その危険性を考え、れぞれのお部屋(2室紹介します)は「内部完全リフォームや申込についてアスベスト撤去の交渉について相談」との内容を確認している。又、紹介するお部屋が「他の部屋に、アスベスト工場の空調なみの暴露と飛散が発生し、そのアスベストが廊下とドアを通じて室内に基準値を上回るレベルで飛散した場合(健康被害の可能性)」という状況は現実的ではないと判断した。
申込については自己責任となるので、その為には『詳細な説明が必要』と考え、アスベストのリスクを「物件紹介のプロローグ」としてまとめる事にした。
さて、現在管理組合へ報告された室内のアスベストについてのリスクは「経年変化でアスベストが飛散し、同様に空調ダクトに破損等があった時、それが混入する可能性」である。
(応急処置が予定されている)
そこで入居者には、
「アスベスト暴露を目視により確認できる事があった場合、密封処置してください」的告知があったのだが、「素人が触ると危険」とされるアスベストに纏わる話から考えれば少々説明不足(通常目に触れるところにアスベストの暴露は無いので、何らかの工事をして建て付けの収納部分に「穴が空きっぱなし」であるとか「大幅な隙間がある場合」という、レアケースであるため上記の表現になったと思われる)である事は否めない。
管理組合での報告はオーナーに対してであるため、賃貸の入居者は個別にその報告を直接オーナーに確認するか管理組合の告知に頼らざる負えないので、入居者にその詳細を伝えるリーフレット等を作成するなどの配慮があっても良かったのではではないか。
※一連の報道で、健康被害を心配している入居者もいるはずで、精神的に心配というメンタル面にも配慮が必要だろう。「空気清浄機等が空気中のアスベスト対策に有効(効果的という意味で、アスベストの飛散を無力化できるという意味ではないが)」等の情報を含めて説明する事があって然るべきだと思う。
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分譲オーナーにとってアスベストは、維持管理コストと資産価値の問題になります(工事は専ら共有部分となるので大規模改修の議決が得られない時にはそれが原因で資産価値が下落する可能性を否定できないし、ボイラー室等の共有部分となると自費で工事するワケにもいきません)。
※不動産会社がアスベストの問題がある事を知りながら、故意に情報を隠す等の事例以外「重要事項説明」にアスベストの説明義務は入っておらず、売買をめぐってトラブルになるケースもあるようです。
修繕の時や解体の時のコストとなりますから、築年数の古いビルやマンション等を購入する時には、費用がかかりますが(国土交通省調べの撤去費用目安は?単価2万〜6万)心配な時には調査を依頼するとよいでしょう。
さて、
やっとここから、そーんな『中銀カプセルタワービル』の紹介ですよっ
<つづく>